
いくつになっても人間ドックは必要?
静岡県浜松市のATSUSHIメディカルクリニック、院長の鈴木淳司です。
多くの企業では60歳を定年としており、この年代を境に仕事をリタイアされる方も多いでしょう。
なかには定年後も働き続ける方もいらっしゃいますが、現役時代のようにフルタイムで忙しく働くというよりは、時間にゆとりを持ちつつ働くスタイルが主流になっていきます。
一方で、年齢を重ねるにつれて高血圧や糖尿病、脂質異常症などの「持病」を抱える方が増え、かかりつけ医を通じて定期的な通院・健康管理を行っているケースも多くなってきます。その結果として、職場で義務づけられていた健康診断や人間ドックを受けなくなる方が少なくありません。
では、60歳を過ぎたら人間ドックはもう必要ないのでしょうか?
実はそんなことはありません。
会社員として勤務している間は、法律により74歳まで定期的な健康診断の実施義務がありますが、人間ドックのような任意の精密検査には年齢制限はありません。
そして現在は「人生100年時代」といわれるほど寿命が延びてきており、長く健康に生きるためには、早期発見・早期治療を目的とした人間ドックは非常に有効です。
60代以降も、自分自身の体としっかり向き合うために、人間ドックを積極的に活用することが望まれます。
60歳以降に人間ドックで受けておきたい検査項目
60歳を超えると、若いころに積み重ねてきた生活習慣の“ツケ”が現れ始めることがあります。
暴飲暴食や運動不足、喫煙、過度のストレスなどが原因で、知らぬ間に生活習慣病を発症していることも少なくありません。
この生活習慣病は、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な病気のリスクを高める要因にもなります。
また、がんの発症率も年齢とともに上昇し、60代以降から一気に増加する傾向にあります。
そのため、60歳を過ぎてからの人間ドックでは、基本的な血液検査や尿検査、胸部レントゲン、胃の内視鏡検査といった一般的な検査に加えて、以下のような専門的な検査を受けておくことが推奨されます。
<心臓関連の検査>
- 冠動脈CT検査
- 心臓MRI検査
- 心臓超音波(エコー)検査
- 運動負荷心電図検査
これらは心筋梗塞や狭心症といった心疾患の早期発見に役立ちます。
<脳の検査>
- 頭部MRI・MRA検査
- 頸動脈超音波検査
脳卒中の予兆や血管のつまりなどを見つけるための大切な検査です。
<全身のがん検査>
- PET検査(がんの全身スクリーニング)
がんの早期発見に高い効果を持つ検査で、特にがんの家族歴がある方にはおすすめです。
また、認知症への備えもこの年代から意識しておくことが大切です。認知症の兆候を早期に捉えるために以下の検査も検討しましょう。
- MCIスクリーニング検査(軽度認知障害の可能性をチェック)
- 簡易脳機能検査(記憶力・判断力を評価)
- VSRAD(MRI画像を用いて脳の海馬の萎縮度合いを数値化する)
特にVSRADは、あまり聞きなれない検査かもしれませんが、アルツハイマー型認知症の初期兆候を数値で見える化できることから、認知症リスクの客観的な把握に役立ちます。
人間ドック受診後にやっておきたいこと

人間ドックは受けて終わりではなく、検査結果をもとに次のアクションを起こすことがとても重要です。
検査結果には「異常なし」「経過観察」「要再検査・精密検査」「要治療」などの評価がついて返ってきます。
「要再検査」「要治療」と記載があった場合は、たとえ自覚症状がなくても放置せず、速やかに医療機関を受診してください。
初期の段階では症状が出にくい病気も少なくないため、「何も感じないから大丈夫」と思わず、専門医の指示に従うことが大切です。
すでに治療中の持病がある場合は、人間ドックの検査結果を主治医に見せて、今後の治療方針に役立ててもらいましょう。
異常なしと結果が出た場合でも安心しすぎず、今後も健康を維持するために、生活習慣を整える努力を継続していくことが大切です。
また、検査結果は一回きりで判断せず、数年分を保管しておくことで体の変化を追跡することができます。
経過観察が必要な項目については、保健師や医師の指導を受けながら食事や運動、睡眠などの生活習慣を見直し、再検査の際に改善が見られるよう努めましょう。
まとめ:健康寿命を延ばすための人間ドック活用
人間ドックの目的は、病気の早期発見・予防にあります。
60歳を過ぎると、すでに何らかの病気を抱えている方も少なくありませんが、だからといって人間ドックが不要というわけではありません。
むしろ、定期的な精密検査を通じて、現状の健康状態を把握し、今後の生活をより良くしていくためのヒントを得ることができます。
「人生100年時代」と呼ばれる現代においては、いかにして健康寿命を延ばしていくかが大きなテーマです。
60代、70代と年齢を重ねても、できるだけ元気に、自立した生活を送るために、年に一度は人間ドックを受け、自分の体と向き合う時間を持つようにしましょう。
予防こそが、将来の安心と生活の質を守る最大の鍵なのです。